静物デッサン・デモンストレーション


 12月28日(月)に美大受験生向けに田所が静物デッサンのプロセスを見せました。
それをここに掲載いたします。

まずモチーフです。

デッサンの最も基本的形態は、球体・円柱・直方体です。 そこに細長い物が絡みます。
● りんご→球体
● ポカリスウェット→円柱
● ティッシュ箱→直方体
です。
モチーフセットは、それぞれの形態が分かりやすいアングルを選んでセットしましょう。

次に最初の作業です。(今回はB3サイズの画用紙に描いています。)

ここで重要なのは、構図です。
私は【なわばり→あたり→かたちどり】と教えています。
初学者は形から取りに行こうとしますが、そうすると構図が悪くなって、結局描き直し、なんてことになってしまいます。
構図=なわばりで大事なのは、まずもって天地左右です。
私は、
天限
地限
左限
右限
と言っております。
紙の四辺との距離をわりとギリギリに取って、モチーフが小さく見えることを防ぎます。
ただ、この構図の取り方は主にデザイン科向けの考え方です。
さらにポイントは、四辺に対して、一点のみを接近させるやり方です。
二点同じ距離に来てしまうと画面が止まって見えてしまいます。
おおらかな動きが無くなってしまうので注意しましょう。

次のプロセスです。

わりとしっかり形のアタリを取ります。
POCARI  SWEAT のロゴは白抜きなので、早めにアタリを付けておいた方が良いでしょう。
りんごは上から見ると五角形をしています。
5つの結節点を意識して形を取って行きます。

次は立体感を表す補助的な調子を付けて行きます。

球体(りんご)は、調子の3要素。
円柱は、調子の5段階。
直方体は、3つの明度

に分けて、まずは形態感のベースを作って行きます。
この【ベース】という考え方が非常に重要です。
ここまで4Bだけで描いています。

次は床(台)を描きます。
台はわりとツルッとしているので、HBを使用します。

これで基本的なベースの仕事は完了です。
形態感と空間感が、これでおおよそ出ています。
何度も後ろに下がって見たりして、構図・形を確認して進めます。

次は描き込みです。

4B、2B、HB などを使って、物の特徴を拾って行きます。
大学側が要求することで最も大切なものは【構造】です。
表面描写は嫌われるでしょう。
既にこの段階で、たくさんのポイントをクリアしています。
ここまででだいたい2時間です。
あとは描き込みに移りますが、その前に布やガーゼや擦筆(あるいは綿棒)などで影(陰)の部分を擦ります。

全体にヌルっとした感じになります。
人によっては初期的段階からこするケースもあります。
私が何故この段階でこするのか?
それはひとえに、こする、という行為は画用紙の溝に調子(鉛筆の粒子)を落とし込む作業なので、いったん擦ったら、修正がなかなか効かなくなります。 
なので、構図・形にある程度確信を持ってから擦るのです。
それと全体のプロセスを明確・明快にする意味もおおいにあります。(こする前とこすった後、という意味です。)

そしてさらに描き込み作業に没頭します。(5Bも投入します。鮮やかな調子がひときわ輝いて見える瞬間を味わえます。)

こすった部分の上から調子を乗せる場合に、ハッチングが武器になります。
ハッチングが調子=色を空間的に定位してくれます。
このあたりは経験していかないと分からない感覚です。
箱の質感は、手前部分に見える紙の厚さと、角の光沢で表します。
透明な物(ペットボトルやガラス瓶)のポイントは、透明感と抵抗感と形態感、この3つです。
透けている感じ、触れることの出来る感じ、円柱 ということです。
それと、ペットボトルに特化して言うと、けっこう厚みがないので、向こう側に見えるものがあまり歪みません。
それを利用します。(ガラスとの描き分けがそれで可能になります。)
りんごは脇役になる場合が多いですが、そのパートを華やかにしてくれます。
食べても美味しいですが、描いても美味しいモチーフ筆頭格です。

最終的な段階では、遠目に見てインパクトがあるかどうかを見極めます。
デッサンは再現ではあっても、やはり【作品】です。パット見の綺麗さや迫力、第一印象などは点数に大きく影響します。
もし試験会場で歩き回っても良いのなら、他人のデッサンを見て、自分のデッサンと比較したいところです。
他人の絵を見て、将棋じゃないですけど、外野は欠点がよく見えてしまうもの。
比較しながら自分の【作品】をブラッシュアップして提出しましょう☆

細かい所をけっこう加筆修正して、ペットボトルが主役に見えるようガシガシ描いています。
りんごの形も少し変えました。
箱の奥の見え方も直しました。
そして何よりリンゴからペットボトルの向こう側に抜ける空間を演出しました。
台の調子も増やして、一体感と安定感を目指しました。

以上で3時間半。
いちいち説明をしながら描いたので、実質3時間です。

当教室の特徴の一つは、このように説明を懇切丁寧にしながらのデモンストレーションです。
これで学生たちは一気に上達します。
言葉ではなかなか伝わらないサムシングが、このデモンストレーションによって伝達されます。

美大受験の基礎はやはりデッサンです。

あわよくばゲームのごとく楽しめると良いでしょう。
ポイントを把握して、それらを一つ一つクリアして行きながら、最終的に美しいビジュアルに仕上げる作業は、けっこう楽しいものです。 (最初はつらい面もありますが、枚数ですね。 まずは30枚を目安にしています。 そこで受験生の本当の意味での仲間入りが出来ます。)

受験生の皆さん、頑張りましょう!!!